drilldripper’s blog

ソフトウェア開発と人生をやっていきます

2017年に読んで印象に残った本

今年読んだ本の中で印象に残ったもの感想を残しておく。

フィクション

あまり意識したつもりはなかったが、振り返ると生き方に関する本を多く読んだ一年だった。修士2年生ということもあり、就職活動などで今後の身の振り方を考えていたので、無意識にそのようなテーマを選んでいたのかもしれない。

悪童日記シリーズ

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)

ふたりの証拠 (ハヤカワepi文庫)

ふたりの証拠 (ハヤカワepi文庫)

第三の嘘 (ハヤカワepi文庫)

第三の嘘 (ハヤカワepi文庫)

辛い現実に直面したとき、人はどのように現実に対処していくのか。悪童日記に登場する双子の兄弟は、自分に嘘をつくという選択をとった。

悪童日記」のエピソード中に「痛みを消す練習」というものがある。お互いを拳やナイフで傷つけ合い、その痛みを無視できるように訓練する。痛みを感じているのは自分ではなく、「別の誰か」であるというように認知をすり替える。辛く悲しい現実を変えるのが難しいときは、自分の認知を変えていくしかない。

途中から心理学者のナチス強制収容所の経験を描いたノンフィクション「夜と霧」と重ねながら読んでいた。悪童日記は極限状態にある人々の心理を巧みに描いたフィクションだったが、夜と霧はノンフィクションならではの凄みがある。合わせて読むと良いかもしれない。

夜と霧 新版

夜と霧 新版

日の名残り

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

カズオ・イシグロノーベル文学賞を受賞したことと、ジェフ・ベゾスの愛読書ということで読んだ。「わたしを離さないで」がいまいちだったのであまり期待せずに読んだが、今年読んだ中でも1位2位を争う良い本だった。

英国の執事が長年勤めた屋敷から休暇をもらい、旅に出ながら過去を振り返る。失われていく伝統や過去の選択を振り返り、行動を起こさずに歳をとってしまったと回顧する姿を見て、自分の頭を殴られたような気分になった。

どんな結果になろうとも、選ばなかった後悔を最小化できるように生きていきたい。*1

あなたの人生の物語

あなたの人生の物語

あなたの人生の物語

恐ろしく出来の良いSF短編集。オールタイム・ベストSFに選ばれている理由がわかった。21世紀のモダンなSFという感じで、科学、数学、言語学、宗教と様々なテーマを絶妙なバランスで成り立っている。

お気に入りは「地獄とは神の不在なり」。神の降臨によって病気や怪我が治癒する人がいる一方、降臨時の災害によって命を落とす人がいる、神が日常的に顕現する世界。降臨に法則性はなく、ほとんど不条理としか思えない神の降臨に人間はどう折り合いをつけていくかという話。

人はなぜ苦しまなくてはいけないのか、という宗教的で古典的テーマをヨブ記を下敷きにして現代風にアレンジした作品として読むこともできる。ドストエフスキーヨブ記からカラマーゾフの兄弟を構想したように、神と不条理の関係は永遠のテーマなのかもしれない。

カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)

カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)

人類は衰退しましたシリーズ

人類は衰退しました1 (ガガガ文庫)

人類は衰退しました1 (ガガガ文庫)

人類が衰退を始め、人類よりも高度なテクノロジーを持った「妖精さん」が新たな人類として認められている世界で、旧人類と新人類とのコンタクトを描いたSF(?)作品

妖精さんのテクノロジーに引っ掻き回される旧人類のドタバタコメディ短編集という形をとっていながらも、全編を通してみると一つの大きな筋が通っていて、スゴイものを読んでしまった…という読後感だった。やはり田中ロミオは天才だった。あと「わたし」ちゃん腹黒かわいい。

私は人工知能の開発によって、人類の役割を人工知能に代替してもらい、人類は緩やかに衰退し地球の表舞台から去って欲しいという考えを持っている。このシリーズの妖精さん人工知能に置き換えて考えると、理想的な人類の老後の一つだと思った。

ところで未知の存在に人類が引っ掻き回される物として「幼年期の終わり」は傑作なので、合わせて読むと面白いかもしれない。

幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)

幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)

白と黒のとびら

魔法の世界で繰り広げられる師匠と弟子のハートフルストーリー、なのだがそこで登場する魔法が一味違う。魔法とはオートマトン形式言語である。オートマトンを呪文に置き換える比喩はものすごく上手く機能していて、全く違和感がない。

ファンタジーに登場する魔法に完璧な整合性を求める設定厨の人、コンピューターサイエンスを学びたい人、単純に面白いエンターテイメントが読みたい人、どの人にもおすすめできる。

素晴らしいストーリーと簡潔でわかりやすい説明のおかげで背景知識無しで読めます…が、私は大学でオートマトンコンパイラの講義を受けていたので、難易度を過小評価しているかもしれない。

ノンフィクション

今年読んだノンフィクションは経済に偏っていた。去年は宇宙や歴史などに凝っていたので、たぶんその反動なのだと思う。

あとは来年から社会人になるので、「社会をやっていくぞ!」という気持ちを高めるために読んでいた側面もたぶんある。

ジェフ・ベゾス 果てなき野望

ジェフ・ベゾス 果てなき野望

ジェフ・ベゾス 果てなき野望

ジェフ・ベゾスは大帝国の皇帝で、邪魔するものは全て叩き潰す冷酷な経営者というイメージがあったが、自分の資産をひたすら宇宙開発やロケット開発に注ぎ込み続ける少年のような心を持つ熱い人だという印象が付け加わった。ちなみに邪魔するものは叩き潰すというイメージは大きくは変わらなかった。

AWSKindle、プライムビデオ、どれもがベゾスのカリスマと異常な投資戦略によって生まれていて、世界の前進に必要なのは民主主義ではなく、クレバーな独裁者が必要なんだという確信が強まった。(スティーブ・ジョブズイーロン・マスク、DHH、etc...)

ゼロ・トゥ・ワン

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

起業するときは競争をせずに独占を目指せ、とPayPal創始者ピーター・ティールが主張する本。競争はアイデアを提案出来ない弱者の選択であると切り捨てる。独占ができれば大きな利益を得ることが可能で、それは世界に新しい価値をもたらす。(AppleiPhoneAmazonのeコマース、PayPalの決済など)

AmazonAppleは間違いなく世界を良い方向に変えたし、独占のインセンティブを活用して事業を拡大してよりユーザ体験を実現しているので、ピーター・ティールの主張は納得感はある…が、納得感があるとはいっても現状の独占が生む超格差社会が果たして正しい姿かと言われると疑問なところがあるので、彼の主張する市場原理に任せきった市場が正しいのかよくわからない。

イノベーションのジレンマ

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)

ジェフ・ベゾス 果てなき野望で紹介されていたので読んだ。

大企業がスタートアップに負けてしまう理由「破壊的イノベーション」を説明した古典。既存の製品を改良するのに夢中になり、新しい特性を持った技術を採用できずに競合に遅れを取ってしまう。

読み終えた後破壊的イノベーションの例を考えてみたところ、意外と多くの場所で発生しているということに気づいた。私が真っ先に思いついたのは、マイクロソフトクラウド参入の遅れという例だった。クラウドが拡大すると既存のOSやサーバ事業が減益してしまうので、大きく方向転換を取るのが難しかったのだと思う(ここ数年のマイクロソフトOSSクラウドへの舵のとり方、本当にすごい)。

予想どおりに不合理

人間は経済的に合理的な判断をすることが出来ない、という例をこれでもかとぶつけてくる。「頼まれごとなら無償で引き受けるが、安い報酬では引き受けない」という例などは、言われてみれば確かに合理的じゃないな…という気づきがある。一通り読んでおくと、日常生活でハックできる点が見つかるかもしれない。

*1:やっていくぞ!!